記事をすべて見る

映画は、どうやって私たちに吸い方を教えたのか

火をつける角度、間の取り方、煙を吐く長さ。誰も教わっていないのに全員が知っています。スクリーンが「かっこよさ」を作った経緯と、それが今も効いている理由。

公開日 更新日 Puff Counter Team 4 分で読めます

  • 文化
  • 広告

かんたんな答え

喫煙の所作は映画とテレビが繰り返し見せて定着させたものです。米国の公衆衛生局長官報告(2012年)は、映画の喫煙描写と若年層の喫煙開始に因果関係があると結論づけています。日本ではテレビCMが1998年に全廃されましたが、物語のなかの描写は残りました。

火のつけ方、吸い込む前の一拍、煙を吐きながら視線を外す角度。

誰にも教わっていないのに、全員が知っています。喫煙者でなくても、真似ができます。教科書はひとつしかありません。画面です。

「かっこいい」は、演出でできている

たばこそのものはかっこよくありません。かっこいいのは、それに付けられた文法のほうです。

間を作る道具として。 主人公が答えに詰まったとき、脚本は沈黙を埋める動作を必要とします。火をつける数秒が、考えている人を撮る口実になります。

手の置き場として。 演技のうえで、手は難しい部品です。何か持たせると、それだけで様になります。

危険の記号として。 体に悪いと全員が知っているものを平然と扱う人物は、それだけで少し無敵に見えます。

孤独の演出として。 夜、屋外、ひとり、光の点。構図が先にあって、たばこはその構図を成立させる小道具でした。

つまり、あなたが憧れたのは喫煙ではなく、落ち着いていて、間を持てて、動じない人物像です。たばこはそこにたまたま置かれていた小道具でした。

偶然そこにあったわけではない時期がある

1980年代の米国では、作品内で自社製品を使うことに対してたばこ会社が報酬を支払った契約が、後に公開された業界内部文書によって確認されています。小道具は選ばれていました。

米国ではテレビ・ラジオのたばこ広告が1971年に禁止され、1998年の包括和解合意で映画への有料のブランド配置も禁じられました。日本でもテレビ・ラジオのCMは業界の自主規制により1998年4月に全廃されています。

ただし、広告が消えても描写は残りました。物語のなかの喫煙は広告ではなく表現だからです。そしてこの三十数年、私たちが見てきたのはまさにその部分です。

昭和の画面が作った、日本の一服

日本には日本の文法があります。刑事ドラマの取調室、事件現場の路地裏、居間のちゃぶ台、屋上での会話。話が動く直前に、必ず火がつきます。

そして「一服」という言葉そのものが、区切りと休息を意味しています。仕事を止めていい理由、席を立っていい理由、黙っていていい理由。画面はそれを何十年も繰り返し肯定してきました。

2020年4月に改正健康増進法が全面施行され、屋内で吸える場所は大きく減りました。喫煙率も長期的に下がっています。それでも所作の記憶だけは、まだ全員のなかに残っています。文化はインフラより遅れて動きます。

今でも効いている理由

米国の公衆衛生局長官報告(2012年)は、映画の喫煙描写と若年層の喫煙開始のあいだに因果関係があると結論づけました。WHOも、喫煙描写を含む作品への成人指定などを各国に勧告しています。

これは意志の弱さの話ではなく、露出量の話です。そしていま露出の主な場所は映画館ではありません。配信ドラマと、短い縦型動画です。Truth Initiativeは、若年層に人気の配信作品にたばこの描写が広く残っていることを繰り返し報告しています。

自分に当てはめると、こうなります。誰かが画面のなかで火をつけると、あなたの手が動く。それは意志が負けたのではなく、合図が正しく働いただけです。

知ったうえで、どう扱うか

描写を見ないようにする必要はありません。仕組みを知っているほうが強いです。

  • 見る前に決めておく。喫煙シーンが来たら、その30秒に何をするか。水を飲む、姿勢を変える、それだけで十分です。
  • 憧れている像を言葉にする。落ち着き、間、余裕。それはたばこ抜きでも手に入ります。
  • 引き金は画面だけではありません。あの動作を無意識に真似している自分に気づけるかどうかが分かれ目です。

今日の2分

今日、あなたが吸った回数のうち、何回が「合図」で始まったかを思い出してみてください。誰かが吸い始めた、画面のなかで火がついた、席を立つ流れになった。

数えると、自発的に吸っていた回のほうが少ないことに気づきます。

Puff Counterは記録した時刻を並べて、あなたのどの時間帯に合図が集中しているかを見せてくれます。外すべき1つを、勘ではなく数字で選べるようになります。

映画の話をすると乗ってくる友人がいるなら、この記事を送ってください。健康の話より、演出の話のほうが届くことがあります。

よくある質問

映画の喫煙シーンは実際に喫煙を増やしますか?

米国の公衆衛生局長官報告(2012年)は、映画における喫煙描写と若年層の喫煙開始のあいだに因果関係があると結論づけています。WHOも、喫煙描写を含む作品への成人指定などの対策を各国に勧告しています。個人の意志の話ではなく、露出量の問題として扱われています。

たばこ会社は映画にお金を払っていたのですか?

1980年代の米国では、作品内での自社製品の使用に対してたばこ会社が報酬を支払った契約が、後に公開された業界内部文書で確認されています。米国では1998年の包括和解合意により、映画への有料のブランド配置が禁止されました。ただし描写自体がなくなったわけではありません。

日本ではたばこの広告は禁止されていますか?

テレビ・ラジオのたばこCMは業界の自主規制により1998年4月に全廃されました。屋外広告や販売時の表示にも制限があります。ただし規制の対象は広告であり、映画やドラマの物語内での喫煙描写は表現として扱われるため、別の枠組みの話になります。

喫煙シーンを見ると吸いたくなるのはなぜですか?

喫煙の合図は視覚的なものを含みます。誰かが火をつける動作、ライターの音、煙を吐く間。こうした手がかりは繰り返し報酬と結びつけられてきたため、画面越しでも渇望を呼び起こします。作品を見る前に、その30秒をどう過ごすか決めておくと影響を減らせます。